今年、3.11の震災から4年という頃、お友達に教えてもらった本なのですが、皆さんにも読んできた抱きたくてここに紹介します。
日本製紙石巻工場が8号抄紙機を震災から半年間という信じられない期間で復興させたドキュメンタリー。
これ、いろいろ勉強になりました。
話は、震災当日の日本製紙石巻工場総務課主任の行動から始まります。
外出先で震災にあった彼がどのようにして工場に戻り、その後津波警報の出る中、工場のスタッフ全員を1人の死者も出すことなくどのように避難を行ったか、ハラハラする展開で始まります。
被災した工場を見た時、工場敷地内、建屋に流れ込んだ汚泥、瓦礫を見てもう復興は無理だと思われる中、日本製紙経営陣は工場の再建を決断します。
日本の出版用紙の40%を生産する日本製紙にとって石巻工場の閉鎖という決断はなかったのかもしれませんが、ここで出された「半年で復興させる」という決断には誰もが耳を疑います。
そして、社員、協力会社、ボランティアたちが一丸となって復興作業に取り掛かります。
ですが、1番被害の少なかった最新鋭のN6抄紙機の作業を始めたところ、営業判断で、被害の酷かった8号抄紙機の復興が優先されます。
会社ですからね~、なんでも復興して動き始めればいいというものでもないわけです。
やはりそこはお客様が一番求めている製品の生産が最優先となるというどの会社にもある営業判断というものに現場は振り回される訳です。
ただし、大抵はこれが正しかったりするわけで。
そこが会社というところですね。
復興は、電気系統の次はボイラーへ・・・という具合に、それはまるで駅伝でタスキを渡すかのように、各工程ごとにチームからチームへスケジュールを遅らせることができないプレッシャーを受けながら復興作業は進められます。
工場の復興は石巻の復興のシンボルでもあります。工場の煙突に再び蒸気が立ち上がるその日に向かって、人々の懸命な作業は続きます。
震災後の野球部は、部の存続も危ういのではないか、こんな時に野球なのかと、様々な葛藤を抱えますが、会社は野球部が社員たちに与える連帯感や心の支えなどの価値を認めており、部の廃止は全く考えていなかったこと、チームもそういった人々思いを背負って強くなっていく姿が描かれています。
コスト重視の経営体質のこのご時世で、1000億円単位の復興費用を抱えた会社は部の存続を決めるのです。
8号抄紙機が作る紙は主に文庫本に使われるものですが、紙の重さまでバリエーションに含めるとその種類は100種類に及びます。
この8号抄紙機が作った紙は、永遠の0などの文庫本、ONE PIECE、NARUTOといったコミック誌などに使われています。
面白かったのは文庫本の色の違いで、講談社は若干黄色、角川は赤く、新潮社はめっちゃ赤など、色や材質など出版社ごとにこだわりがあり、角川のそれは「角川オレンジ」と呼ばれています。
これ、本屋さんで比べて見てみたいですよね(^^)
このドキュメンタリーでは震災の陰の部分も書かれています。
メディア各社は、被災した人たちの我慢強いモラルのある行動ばかりを美談として報じましたが、金属バット、ゴルフクラブを担いでお店に討ち入る輩もいたわけです。
あまり僕らが耳にしなかった人間の善と悪の部分もちゃんと聞かされます。
さて、8号抄紙機は目標通りに半年で見事な復興を果たします。
復興イベントの最初の稼働で、パルプを抄き、ドライヤーで乾燥させ、紙を最後のリールに巻き取るところまでを「通紙」と言います。この本のタイトルの「紙つなげ!」もこの通紙から来ています。
この8号機。マニュアル操作が多く必要な気むずかしい「姫」と愛称で呼ばれる旧型の機械で、初運転では数時間かかるだろうと思われていた通紙も、なんと数十分という記録的な速さで通紙を成し遂げてしまうのです。人々の思いが通じた瞬間として描かれています。
物を作る会社の社員たちの仕事に対する思いには頭が下がります。この本を読んで、いつも何気なく読んでいる本にも少し思いが異なる気がします。
3月11日を大分過ぎてしまいましたが、是非読んで欲しい一冊です。
電子書籍が増えるこのご時世、紙の本に対して、この紙にどれだけの人たちの思いが込められているのかと思うと、もう一度本屋さんに足を運ぼうかなと思わせられるものでした。
あっ、ちなみに、そんな内容とも知らずに、Amazonでポチッとして手に入れたこの一冊ではありますが、手に触れた紙の触感には複雑な思いもありまする(^_^;)
さて、この本にももちろん日本製紙石巻工場の8号抄紙機で製造された紙が使用されています。
使用紙 :
オペラクリームHO四六判Y目58.5kg
という素人にはなんだか分からない名前ではありますが・・・(^_^;)
『紙つなげ! 彼らが本の紙を作っている 再生・日本製紙石巻工場』
著者 佐々涼子
早川書房
敢えて、AmazonへのLINKは付けません。
皆さん、本屋さんへGO!
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